【物語1】「明日死んでも悔やまない今日を過ごそう」──あの日の言葉が私を変えた。
「明日死んでも悔やまない今日を過ごそう」
この言葉を、私が初めて耳にしたのは、新卒で入社して半年が過ぎたある雨の日のことでした。
会社に入った当初は、すべてが新鮮で、毎日が刺激に満ちていました。名刺交換すらぎこちなくて、電話応対では噛んでばかり。それでも「私は社会人になったんだ!」という誇らしさでいっぱいでした。
でも、そんな高揚感は長く続きませんでした。
仕事は思っていた以上に厳しく、同じミスを何度も繰り返し、上司からは冷たい目を向けられる。同期はどんどん成果を出して評価されていくのに、私は自信をなくし、会社に行くのが億劫になっていきました。
「私って、この仕事に向いてないのかも……」
そんな風に思い始めた頃、部署の先輩と帰りが一緒になったことがありました。駅までの帰り道、何気なく私がため息まじりに「最近うまくいかなくて、毎日自己嫌悪です」とつぶやいたんです。
すると先輩は、立ち止まってこう言いました。
「うん、私も新卒のとき、そうだったよ。でもね、私が変わるきっかけになった言葉があるの。『明日死んでも悔やまない今日を過ごそう』っていうんだけど…」
その瞬間、電車の走る音と雨の音が交差する中で、その言葉だけが、やけにクリアに聞こえました。
その日から、私は毎晩、眠る前に自分に問いかけるようにしました。
「今日の私は、明日死んでも悔いがない一日だった?」
最初のうちは、答えは決まって「いいえ」でした。仕事のミスを引きずって落ち込んだ日、ただ時間だけが過ぎていったような日、やるべきことから目をそらしてしまった日……。
でも不思議なことに、自分に問いかけを続けるうちに、「後悔のない一日を過ごそう」と自然に意識するようになったんです。
たとえば、私はプレゼンが大の苦手でした。声が小さくて滑舌も悪く、社内の練習でも「もっと自信を持って話そうよ」と何度も注意されていました。
でも、私は変わりたかった。だから毎晩、鏡の前で発表練習をしました。喉が枯れて声が出なくなるまで、一人で何度も繰り返しました。
ある日、その努力が実を結びました。クライアント向けの初プレゼンで、上司が小さくうなずきながら聞いてくれていて、終わった後に「今日のプレゼン、よかったよ。ちゃんと伝わってた」と、ぽつりと言ってくれたんです。
その言葉を聞いたとき、涙が出そうになりました。私は心の中で「今日は“はい”って言える日だ」と思いました。
他にも、クレーム対応で落ち込んでいた同僚を支えたり、後輩に自分の失敗談を話して励ましたり。誰かの役に立つことが、自分の価値につながっているんだと実感できるようになりました。
毎日が完璧なわけじゃありません。悔いが残る日もあります。でも、それでも「明日死んでも悔やまない今日にしよう」と思って生きることは、私の人生の軸になりました。
この言葉がなかったら、私はきっと、途中で自分に折れていたかもしれません。
振り返れば、「一日をどう生きるか」が、こんなにも人を変える力を持っているんだと、身をもって知りました。
もし、今つらいあなたへ
社会に出ると、うまくいかないことだらけです。特に新卒の時期は、何もかもが不安で、どうしても「結果」ばかりに目が向きがち。でも、大切なのは「今日どう過ごすか」だと、私は今ならはっきり言えます。
「明日死んでも悔やまない今日を過ごそう」
この言葉は、焦る私の心を落ち着かせ、進むべき方向を示してくれました。もし今、あなたが「自分はダメだ」と思っていたとしても、その一歩先に、かならず明るい景色が広がっています。
今日という一日を、どうか大切に。
そして、寝る前に少しだけ、自分に問いかけてみてください。
「今日の私は、明日死んでも悔いがない?」
きっと、少しずつ変わっていけるはずです。

