眼から始まる煩悩と商売の知恵
除夜の鐘が108回鳴らされるのは、「煩悩」が108あるとされているからだと言われます。その数え方には諸説ありますが、一つに「六根(眼・耳・鼻・舌・身・意)」それぞれに6種の煩悩があり、さらにそれを「過去・現在・未来」の三つの時間軸で捉えて合計108とする説があります。
今回はこの「六根」のうち「眼根(げんこん)」、つまり「目」に注目し、そこから生じる煩悩と、それをビジネスの世界でどう生かして成功してきたのかを紐解いてみましょう。
眼根から生じる煩悩とは?
眼根は「色(しき)」と呼ばれる視覚的な対象と関係し、私たちが「見る」ことによって生まれる欲望や感情の源です。たとえば、美しい人や物を見れば「欲しい」「手に入れたい」といった色欲が生まれます。また、醜いものを見れば「嫌だ」「避けたい」という瞋恚(しんに)、他人の持ち物を見て「羨ましい」「自分も欲しい」という嫉妬が湧き上がることもあります。
煩悩をビジネスチャンスに変えた商人たち
この「見ることによって起きる欲」を巧みに読み取り、ビジネスに活かしてきたのが、歴代の商人たちです。たとえば、江戸時代の呉服屋「大丸」や「越後屋(現三越)」は、店先に色とりどりの反物を美しく並べて通行人の視線を奪い、「見せることで欲を刺激し、購買につなげる」という販売戦略を実行してきました。
また現代の広告業界でも、「目に留まるデザイン」や「映える商品パッケージ」は極めて重要です。例えばコスメ業界では、商品の質だけでなく、パッケージの「可愛さ」や「高級感」が購買意欲に直結するため、視覚に訴えるデザインが重視されます。
つまり、「人は見た目で欲を刺激される」ことを理解し、それに応じた商品や陳列、宣伝方法を考え抜いた商人こそが成功を収めてきたのです。
現代のSNSと眼根の煩悩
さらに近年では、SNSもまた「眼根の煩悩」を活用した商売の一例です。InstagramやTikTokでは、美しい写真や動画が日々投稿され、人々はそれを見て「行きたい」「欲しい」「なりたい」と思い、購買行動へと動かされます。
つまり、現代の商人も、見た目のインパクトで心を動かし、「目で欲を掴む」という仏教的な煩悩のメカニズムを無意識のうちにビジネスに取り入れているのです。
まとめ:煩悩は敵ではなく、使い方次第で味方になる
仏教では煩悩を「苦しみの原因」とし、それを滅することが悟りへの道とされます。しかし、現実社会においては、煩悩もまた人間の自然な欲求であり、正しく使えば大きな力となります。
見ることによって生じる欲望。それを否定するのではなく、どう向き合い、どう活かすか。商人たちはそれを知恵として磨き、商品やサービスを通じて人々の欲に寄り添ってきたのです。
煩悩と上手につき合う――それは現代人にも通じる、智慧ある生き方ではないでしょうか。

